怖くて、おもしろくて、やめられない

芦沢央さんの『汚れた手をそこで拭かない』を読んだ。

どの短編も、怖いけれど、おもしろい。だから、読むのをやめられない。

寝る前に読んでいたら、なかなか寝付けなかった。

 

ネタバレあり。まだ読んでいない方は、ここから先は読まないでください。

 

 

「ただ、運が悪かっただけ」

毒親をもつ娘に同情する。彼女のやったことを支持してしまう自分が怖い。もし同じ立場に置かれたら、私は彼女がやってしまったことを、やらずにいられるだろうか。正直、自信が持てずにいる。

 

「埋め合わせ」

大きなミスをしてしまった。できることなら隠しとおしたい。なんとかごまかせないだろうか。そう思ってしまう弱さや浅はかさ。ほんとはダメなんだけどさ。そんなこと百も承知。だけどついそっちに流されて、事態をさらに悪化させてしまう。主人公の小学校教師がもうね、ハラハラしながら読んだ。

 

「忘却」

電気屋さんということで、アパートの隣人の家電を好意で修理してあげて、そのついでに配線をいじって電気を盗んで、何食わぬ顔で過ごしていた老人も怖いけど。老人に電気を盗まれていたと判明してもなお「もったいない、ただそれだけだったのだろう」とか「わからないでもない」とか、許せてしまう主人公がもっと怖かった。電気代もったいないからって、人の家の電気を盗もうって発想がもう無理。そのうち、買うのもったいないからって、どこかで万引きしそうで怖い。

 

「お蔵入り」

この話もハラハラしながら読んだ。主人公が自分の犯行をうまくごまかせたつもりだったのに、最後の最後に思わぬ落とし穴があって、しかも自分からハマっていったのがおもしろかった。視聴者にウケるためなら何をしてもいいと言わんばかりの制作側やタレントによって傷つけられた少女が、最後に復讐するような終わり方なのも好き。

 

ミモザ

料理研究家の主人公と、彼女の元不倫相手の男に、終始イライラさせられる。夫がいて著名人なのに、サイン会に現れた男の誘いにホイホイ乗ってしまうところから、もううんざり。さらに成功した自分を見せつけたいがために、お金を貸してしまうなんてどうかしている。思わず「バッカじゃない?」ってつぶやいてしまった。このあと、もっとひどいことになるんだけど、そりゃそうなるよねって思ったし、一ミリも同情できなかった。