第一編では40代だった主人公が、最終編では70代の未亡人になっているなんて想像もしなかった。とにかく時間の経過が早い。同じ話の中でも段落が変わると、何年か経った後の話だったりしていて、びっくりする。
時間の経過の早さと共におもしろいのが、主人公のはずのオリーヴ・キタリッジが、ある短編では主人公になっているけれど、別の短篇では脇役になっているところ。中には「あれ、このままオリーヴは出てこないのかな?」と思うほど存在感が薄い短編もある。
オリーヴが脇役のとき主役になるのが、彼女と同じ町に住む人々。彼らの目に映るオリーヴを見ていると、自分のことは自分が一番わかってないのかもと思わずにはいられない。オリーヴが思う自分と、周りが見る彼女とのギャップがまたおもしろい。
オリーヴは小説では魅力的な人物に映る。でも、もしこんな人が同じ町内や身内にいたら、できるだけ距離を取りたいと私なら思うだろう。一番気の毒だったのが、オリーヴの一人息子のクリストファー。散々気分屋の母親に振り回されてきた彼が、もう言いなりにはならないとばかりに、母親と対決するシーンでは胸がすく思いがした。