経験者として腑に落ちない

吉本ばななさんの『幸せへのセンサー』読んだけど、どうしても腑に落ちないことがひとつ。

 

誤解を招く言い方かもしれませんが、周りの人たちを見ていても、自分のことばっかり考えている状態が長く続くと、鬱状態になるんじゃないかと思うんですよ。自分の内側ばかり見て、自分のことばっかり考え続けていたら、それはやっぱり自家中毒になりますよ。エネルギーも循環していかないし、自分で自分自身を責めて、責め続けて蝕むことになる。そして他の人がしてくれることにまったく感謝できなくなる。そういう状態が続いたのが、鬱病の直前の状態というものじゃないかと思うのです。

『幸せへのセンサー』42ページより

 

夫も私も鬱状態になった経験があり、私は当時それが原因で退職したし、夫は休職していた時期があった。自分が鬱になって、また鬱になった家族と暮らしていた者として、この文章がどうしてもひっかかる。

 

「周りの人たち」の何がわかるのか

周りの人たちを見てもっていうけど、自分から見えるのは、その人の表面上のほんの一部でしかない。それなのに「自分のことばっかり考えている」って言い切ってしまうのはどうなんだろう。たしかに私は当時自分のことばっかり考えていたかもしれない。でも夫は絶対に絶対に違う。

 

鬱になったら、周りへの感謝の気持ちが強くなった

自分を責め続けて自分を蝕むのはわかるとして、それがなんで「他の人がしてくれることにまったく感謝できなくなる」につながるのか不思議。夫は鬱になっても、周りの人たちに感謝の気持ちを表していたし、私だって鬱になってから、夫をはじめ支えてくれている人に感謝する気持ちが、これまで以上に強くなった。だから「まったく感謝できなくなる」っていうのがどうしても腑に落ちない。

 

自家中毒ってなに?

ネットで調べてみたら、自家中毒というのは「2歳から10歳くらいまでの子どもにみられる、腹痛や嘔吐を繰り返す病気」なんだとか。それを知ると、自分のことばっかり考え続けていたら自家中毒にもなるって意味不明。なんで子どもにみられる病気を鬱状態の人に当てはめるんですかって話。

 

そもそも、鬱状態って?

あの文章を読んでいると、鬱状態の人ってずいぶん自分本位で勝手な人に思えるけど、そもそも鬱ってどんな症状なのか?厚生省のWebサイトを見てみた。

 

うつ病は、気分がひどく落ち込んだり何事にも興味を持てなくなったりして強い苦痛を感じ、日常の生活に支障が現れるまでになった状態である。こうした状態は、日常的な軽度の落ち込みから重篤なものまで連続線上にあるものとしてとらえられていて、原因についてはまだはっきりとわかっていない。

うつ病の基本的な症状は、強い抑うつ気分、興味や喜びの喪失、食欲の障害、睡眠の障害、精神運動の障害(制止または焦燥)、疲れやすさ、気力の減退、強い罪責感、思考力や集中力の低下、死への思いであり、他に、身体の不定愁訴を訴える人も多く、被害妄想などの精神病症状が認められることもある(厚生労働省地域におけるうつ対策検討会作成の保健医療従事者マニュアル参照)。


2.うつ病を知る

 

私も夫もこんな感じだった。私の場合、特に症状がひどいときは、布団から出てトイレに行くのも一苦労だったほど。

「原因についてはまだはっきりとわかっていない」そうなので、じゃあ「自分のことばっかり考えているから」というのも違うんじゃないかと思った。

 

読んだ感想は「ふーん。彼女は鬱になる人を、そんな風に考えてるのね。」「残念ながらこの本は、私にとって幸せへのセンサーじゃなかったみたい。」この文章で、著者の新たな一面を知れてよかったと思う。